社会保険労務士とは国家資格です
社会保険労務士は1968年に制定された「社会保険労務士法」を根拠とする国家資格ですね。社会保険労務士となるには年に1回8月の第4日曜日に開催される社会保険労務士試験の合格と2年以上の実務経験を経て全国社会保険労務士会の名簿に登録をする必要があります。
社会保険労務士試験の合格発表は概ね11月の前半なのですが、苦労して国家試験に合格すると早く名刺に「社会保険労務士」と記載したくなりますね。お気持ちはよく分かります。しかし、上記に記載した通り「名簿への登録」を行わない間は「社会保険労務士試験に受かった人」です。正式に登録するまでは記載はできません。
因みに社会保険労務士ではない人が社会保険労務士を名乗れば罰則があります。社労士法二十六条「名称の使用制限」違反で100万円以下の罰金です。
(名称の使用制限)
社労士法第二十六条 社会保険労務士でない者は、社会保険労務士又はこれに類似する名称を用いてはならない。
(雑則)
社労士法第三十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、百万円以下の罰金に処する。
三 第二十六条の規定に違反した者
ごく稀にですが「社会保険労務士有資格者」といったような名刺を見る事があります。おそらく試験には合格してもまだ「登録をしていない」状況の方なのではないかなと思います。間違いではないと思いますが二十六条の趣旨を考えると(類似するともありますので・・・)個人的には正式に登録をして免許を取得するまでは、少なくともお客様に渡す名刺にはそういった記載はしない方がよいと思います。
社会保険労務士の仕事とは?
社会保険労務士の仕事を表現するのによく言われている言葉ですね。企業の「人」に関わること全般が業務になります。その中心は企業に義務付けられている「労働保険・社会保険の諸手続き」になります。もう少し具体的に言えば社会保険は「厚生年金・健康保険」、労働保険は「雇用保険・労災保険」等の諸手続きですね。また、社会保険料とは密接な給与計算の代行を受託している社会保険労務士も多いですね。
他にも人事労務関係の相談や年金の相談、就業規則の作成や届出等が社会保険労務士の仕事になります。これらは社会保険労務士法2条1項に社会保険労務士が行う事が出来る業務として記載がされています。一般的には条文から「1号業務」「2号業務」「3号業務」と呼ばれています。まずは条文から社会保険労務士の仕事を見いきたいと思います。
社会保険労務士の仕事とは?条文から見てみる
■第2条1項
・1号
一:労働及び社会保険に関する法令に基づいて申請書等を作成する事。
二:請書等について、その提出に関する手続を代わつてする事
三:労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、再審査請求その他の事項代理すること。
四~六:個別労働関係紛争の調停の手続について、紛争の当事者を代理すること。
※紛争代理に関しては一定の要件(特定社会保険労務士付記)が必要
・2号
労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類を作成すること。
・3号
事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること。
■第27条
社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、
他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。
具体的には、
事業者に義務付けられている各種「労働保険」「社会保険」の書類作成や提出代行、助成金の申請や審査請求の事務代理など。
賃金台帳や労働者名簿を作成すること。
人事制度や評価制度等の構築支援。
といった形になります。
また、この中で1号業務、2号業務は社会保険労務士の独占業務となります。
独占業務に関しては後述します。
社会保険労務士の仕事を「年間」で見てみる
社会保険・労働保険に関しては年間で「この時期までに処理をする」と決まっているものがあります。そこで、社会保険労務士の仕事を年間スケジュールで見てみます。毎年同じ時期に全ての企業一斉にスタートするものは把握もしやすいですね。
時期
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保険区分
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手続き |
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6月
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労働保険
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労働保険年度更新 |
7月
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労働保険
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労働保険料の納付期限(第1期)※7月10日まで |
7月
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社会保険
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算定基礎届提出 |
10月
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社会保険
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定時決定に伴う社会保険料控除額の変更 |
10月
|
労働保険
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労働保険料の納付期限(第2期)※10月31日まで |
11月
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労働保険
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労働保険料の納付期限(第3期)※1月31日まで |
ちなみに社会保険労務士事務所が1年で最も忙しいのは「算定基礎届」を提出する7月です。社会保険労務士事務所で実務のお仕事しながら試験勉強をしていると直前期(試験は8月)に最も忙しい時期になるので、なかなか受からないジンクスがあるとかないとか・・・
社会保険労務士の仕事を「イベント」から見てみる
新しい職場に勤務をすると「健康保険証」がもらえたり、毎月の給料から保険料が徴収されたりしていますね。年間で決まっている手続き以外にも従業員の入退社等があればその都度手続きが発生します。主な手続きは下記のような形になります。入社・退社の頻度が非常に高い会社ですと結構大変です。
イベント
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区分
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手続き |
---|---|---|
入社
|
社会保険
|
健康保険・厚生年金資格取得手続(5日以内) |
入社
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労働保険
|
雇用保険資格取得手続(翌月10日まで) |
退職
|
社会保険
|
健康保険・厚生年金資格喪失手続(5日以内) |
退職
|
労働保険
|
雇用保険資格喪失手続(10日以内) |
賞与支給
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社会保険
|
賞与支払届(5日以内) |
給与改定
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社保
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月額変更届の提出(随時改定) |
従業員の入退社を中心にざっと紹介をさせて頂きましたがこの他にも従業員が業務上怪我をすれば労災関係の「休業補償給付申請書(労災)」、新しい事業所を設立すれば「適用事業所設置届」、従業員の扶養関係に変化があれば「被扶養者異動届(健康保険)」といったように企業や所属する従業員に変化があれば都度申請や手続きが必要になります。
ちょっと余談ですが「5日以内に処理」とか「10日以内に処理」「翌月10日以内に処理」といった期限に関しては社会保険労務士の試験ではよく問われる基本問題です。僕も表組みを自分で作成して通勤中とかによく見ていました。
社会保険労務士の仕事を「年齢」から見てみる
社会保険や労働保険はその対象従業員の年齢によっても手続きが発生します。顧問先の状況をしっかりと把握していないと見落としがちになる部分ですね。特に従業員の出入りが激しい顧問先は注意が必要ですね。
イベント
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区分
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手続き |
---|---|---|
40歳
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社会保険
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介護保険料の徴収開始 |
64歳
|
労働保険
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雇用保険料の徴収終了 |
65歳
|
社会保険
|
介護保険料の徴収終了 |
70歳
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社会保険
|
厚生年金保険70歳以上被用者該当届の提出 厚生年金保険被保険者資格喪失届の提出 厚生年金保険料の徴収終了 |
75歳
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社会保険
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健康保険被保険者資格喪失届の提出 後期高齢者医療保険へ |
社会保険労務士の独占業務とは
実務の経験がある方や社労士試験の勉強をされた事がある方以外には少々分かり難いかもしれません。社会保険労務士を始め、「弁護士」「税理士」「公認会計士」など所謂「士業」と言われる仕事にはその資格を有していないと行う事ができない「独占業務」というものがあります。
分かりやすい例でいうと弁護士は「訴訟」、税理士は「納税」や「税金に関する相談業務」が独占業務ですね。このあたりはテレビ等の影響もありなんとなくイメージしやすいのではと思います。社会保険労務士はその名の通り「労働社会保険」の専門家なので「労働社会保険関連」、つまりは労働保険(雇用保険・労災保険)や社会保険(健康保険・厚生年金)の手続きに係る書類作成・提出が基本的な独占業務です。また、常時10人以上の従業員を擁する使用者は「就業規則(勤務時間や賃金といった会社のルール)」を作成してこれを所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。この就業規則の作成や届出代行も社会保険労務士の独占業務になります。
就業規則の作成や届出を社会保険労務士ではないコンサル会社等が行えば社会保険労務士法違反になります。また、各種助成金の申請も社会保険労務士ではない方は行う事ができません。勿論、独占業務とは言っても当の経営者、使用者本人が自分のために自分で届け出る事は問題ありません。この「独占業務」の守備範囲に関してはやや流動的な部分もあり士業間でその業務範囲を巡って論争が発生する事もあります。一般的にはよく「業際問題」と言われています。時間があればいずれ触れてみたいと思います。
社会保険労務士「開業」「勤務」「その他」とは
僕自身も試験勉強を始めてから知ったのですが「社会保険労務士」にはその勤務形態に応じて3種類の登録方法があります。社会保険労務士となるには必ず都道府県の社会保険労務士会に所属しなければなりません。社労士会に納める会費には若干差があります(開業登録が他に比較して高額) が登録方法による上下はありません。
社労士の開業登録とは
一番イメージがしやすいのがこの「開業登録」ですね。皆さんがイメージしているいわゆる「士業」のイメージです。一国一城の主として顧問先の開拓を行い事務所を切盛りしています。また、社会保険労務士法人も社員として勤務する場合にも「開業登録」となります。
社労士の勤務登録とは
一般企業に勤務している社会保険労務士です。企業の人事部や管理部門の担当者が「管理部人事課長 社会保険労務士〇〇△△」といったように、名刺に「社会保険労務士」と記載されている名刺を御覧になった方も多いのでは?こういった方は「勤務社労士」になります。ただ、開業登録とは異なり自分の所属する会社の仕事しか行う事はできません。
自分の勤めている会社の事は社会保険労務士の資格がなくても出来ますが、人事、管理部門もより高度な専門性が求められるようになってきているため、従業員に資格の取得を勧めている会社も(資格取得で手当がアップする企業もあります)増えていますね。
社労士その他登録とは
開業でもなく勤務でもない登録という事になります。勤務社労士として務めている方は「勤務先(所属の一般企業)」を届け出るのですがその他の方は自宅を届け出ます。実態としては、現在所属している会社では社会保険労務士の資格が活かせない場合に取り敢えず登録をされる方が多いようです。意味あるの・・・?という疑問もあるかもしれませんが、「開業」「勤務」と同様に社労士会に所属する事にはなるので、社労士会が提供する「社労士(会員)限定」の各種研修会等への参加する事はできます。
社会保険労務士の新しい仕事の形とは
多くの開業社会保険労務士、社会保険労務士法人は各種社会保険関連専門家として各種の届出や給与計算を請負い顧問料を得て事務所を運営しています。しかし、最近はそういったオーソドックスな事務所運営以外の活動を中心としている社労士も出てきているようです。勿論、顧問契約を獲得しながら併せて活動をされている方もいます。
講演活動
社会保険労務士の資格試験の学習をされた方ならご理解を戴けると思うのですが「労働・社会保険関連の法律」は民法や刑法と異なり毎年のように法改正がなされています。社労士を目指す受験生にとっても悩ましいのですが、それ以上に悩ましいのは毎年の対策に頭を悩ませる企業経営者やの実務担当者です。
一方で、「法改正」は様々な企業にとってビジネスチャンスでもあります。特に、法改正を見越した「業務支援ツール」を開発している企業にとっては自社システムを導入してもらえる絶好の機会です。マイナンバー制度のような大きな法改正が行われると「人事担当者向け」「企業経営者向け」の無料セミナー等を開催して集客を図り、自社の製品の宣伝も行います。下記のようなイベントやセミナーをご覧になった方もいるのでは・・・?
**株式会社主催セミナー
第1部:来るべき〇〇法施行前に人事担当者がやるべき3つのポイント
講師:〇△社会保険労務士事務所所長 〇△〇△先生第2部:法改正に完全対応。〇〇クラウドサービス特徴
講師:弊社クラウド事業部取締役事業部長 〇〇△△第3部:相談会
こういった講演活動を中心を中心に活躍されている社会保険労務士も増えてきています。社会保険労務士になる前の業界経験も活かす事が出来る場合もありますね。また、セミナー講師として講演をするまでいかなくても最後の「相談会」で自社賞品には詳しいが「法律そのもの」には詳しくない企業の担当者をフォローをするといった活動もありますね。もし、法律だけでなく「業務支援ツール」にも詳しければセミナー主催者としてはこれ程頼もしい事はありません。そこで、評判が良ければ講師のオファーが来ることもあると思います。
受験講師
社会保険労務士資格を取得した後に「社労士試験」の講師となって活動をされる方もいらっしゃいます。資格スクールの講師ですね。資格予備校も常に質の良い講師を求めています。勿論、受かりたてほやほやで即講師というのは難しいかもしれませんが教壇にたって講座を持つだけが講師ではありません。通信講座等の場合は受講者向け管理画面やメールでの質問に回答をする仕事も立派な講師ですね。なんらかの「資格スクール」「通信講座」を受講して合格をされた方ですと、合格後に「スクールでの講師をしませんか?」といった案内があることがあります。興味がある人は登録をしてみるのも良いと思いますね。
社会保険労務士の仕事に必須?WEB情報発信
ここ数年はインターネット上での発信から所謂炎上をしてしまう事例をよく見るようになりました。「社員の辞めさせ方」といったブログ記事を記載して問題となった社会保険労務士事務所もありましたね。そういった影響もありネット上での情報発信、さらには「インターネット」そのものに不信感を持っている方も多いと思いますが、上手く活用して仕事に繋げている社会保険労務士も多いですね。
ご存知の通り、昨今の労務問題の多様化、厚生年金や健康保険・介護保険など社会保険制度の複雑化が進み専門家でないと問題の本質や説明できない事が増えてきています。同じ社会保険労務士でも「年金に強い」「安全衛生に強い」など専門分野を武器に活躍をしている方も増えています。
皆さんもご覧になった事があるのではないでしょうか?例えば、大手ポータルサイトのネットニュースが配信する記事にも、
といった記事や最後の署名が「社会保険労務士〇〇」と記載されていたりとか。原稿執筆や取材に関しては必ずしも安定的な「収入」にはなり難いです。社会保険労務士としての本来の仕事も忙しい中で原稿を執筆したり取材を受けるのは難しいですね。
一方で、メディア側は「専門的な知見」と「分かり易い文章」が執筆できる(しかも割安に)専門家を探しています。
そこで、普段から自らが運営するHP等で情報発信をしていると「メディア」側からお声がかかる事があるんですね。実は、
の両方が出来る人は非常に少ない。
「知識が豊富」な方でも実際執筆となると・・・中々難しい。読者層やメディア側が伝えたい事を理解してもらうのも簡単ではないですし、実際に書いてもらうと専門的過ぎて難解であったり、読者のニーズからズレていてしまったり。
記事を依頼するメディア側としては「記事が分かりやすい」HPやブログ・サイトをがあれば、ある程度「質」を担保した記事を執筆できる可能性がある社会保険労務士として依頼がしやすくなるんですね。例えば「年金制度について分かり易い記事」をHPやブログに掲載してあればそれをきっかけに「若年層で年金が支払えない方に向けての記事」の依頼があったりとか。
勿論、「原稿料」としてはそれほど高いものは望めないと思うのですがもし、それがメディアに掲載されれば、その社会保険労務士の「執筆実績」になり「ブランディング」にもなります。
社会保険労務士法人**代表
特に、派遣・非正規雇用に関しての労務管理が得意。
〇〇新聞、△△ニュース等に寄稿多数。
〇△社主催「短時間労働者の労務管理で最初に取り組む問題」など、
講演実績も多数。
実績が増えると、それをきっかけに先ほどの「講演活動」等の依頼があればさらに信頼と実績を積上げる事も可能ですね。インターネット上での情報発信やSEO、WEBマーケティングにも詳しい社会保険労務士はまだまだ少ないので、そういった知見を既にお持ちの方であれば可能性は広がると思います。実際、若い(30代中半位)の社会保険労務士でも各方面で活躍されている方も増えていますね。
これからの社会保険労務士など「専門家」にとって必須のスキルですね。