社会保険労務士と行政書士はその難易度がよく比較される国家資格ですね。難易度はどちらが高いのでしょうか?社会保険労務士の方が難易度が高いという言う説はその理由として行政書士と比較して社会保険労務士の方が試験科目が多く出題範囲も広い上に受験資格(社労士試験には学歴や経験で受験資格を満たす必要があります。)がある事等がよく上げられています。
一方で、昭和・20世紀の昔はともかく、21世紀になってからは行政書士の方が難しいと言われる事もあります。その理由として、社会保険労務士試験は全問マークシート式だが行政書士試験は記述式もある。合格率もほぼ変わらない事を考えれば行政書士と社労士の難易度は同じ位か、やや行政書士の方が難しいのでは?という事が言われたりしています。
行政書士と社会保険労務士の難易度を合格率から比較
さて、まず単純に「合格率という観点」で行政書士と社会保険労務士の比較をしてみます。
実施
年次 |
社労士
受験者数 |
社労士
合格者数 |
社労士
合格率 |
行書
受験者数 |
行書
合格者数 |
行書
合格率 |
---|---|---|---|---|---|---|
2000年 | 40,703人 | 3,483人 | 8.6% | 44,446人 | 3,558人 | 8.0% |
2001年 | 43,301人 | 3,774人 | 8.7% | 61,065人 | 6,691人 | 11.0% |
2002年 | 46,713人 | 4,337人 | 9.3% | 67,040人 | 12,894人 | 19.2% |
2003年 | 51,689人 | 4,770人 | 9.2% | 81,242人 | 2,345人 | 2.9% |
2004年 | 51,493人 | 4,850人 | 9.4% | 78,683人 | 4,196人 | 5.3% |
2005年 | 48,120人 | 4,286人 | 8.9% | 74,762人 | 1,961人 | 2.6% |
2006年 | 46,016人 | 3,925人 | 8.5% | 70,713人 | 3,385人 | 4.8% |
2007年 | 45,221人 | 4,801人 | 10.6% | 65,157人 | 5,631人 | 8.6% |
2008年 | 47,568人 | 3,574人 | 7.5% | 63,907人 | 4,133人 | 6.5% |
2009年 | 52,983人 | 4,019人 | 7.6% | 67,348人 | 6,095人 | 9.1% |
2010年 | 55,445人 | 4,790人 | 8.6% | 70,576人 | 4,662人 | 6.6% |
2011年 | 53,392人 | 3,855人 | 7.2% | 66,297人 | 5,337人 | 8.1% |
2012年 | 51,960人 | 3,650人 | 7.0% | 59,948人 | 5,508人 | 9.2% |
2013年 | 49,292人 | 2,666人 | 5.4% | 55,436人 | 5,597人 | 10.1% |
2014年 | 44,546人 | 4,156人 | 9.3% | 48,869人 | 4,043人 | 8.3% |
2015年 | 40,712人 | 1,051人 | 2.6% | 44,366人 | 5,814人 | 13.1% |
2016年 | 39,972人 | 1,770人 | 4.4% | 41,053 | 4,084 | 9.95% |
2017年 | 38,685人 | 2,613人 | 6.8% | 40,449 | 6,360 | 15.7% |
2018年 | 38,427人 | 2,413人 | 6.3% | 39,105 | 4,968 | 12.7% |
平 均
|
46,644人
|
3,620人
|
7.8%
|
60,024人
|
5,119人
|
8.5%
|
※赤太字は最低、黒太字は最高(2000年以降)
2000年以降の推移で見ると8%前後で平均合格率はほぼ拮抗していますね。受験者の総数が行政書士の方が多いため合格者数に関しては行政書士の方が多いです。冒頭で記載した通り行政書士に関しては「受験資格」がなく誰でも受験が可能なため、一定の受験資格を課している社会保険労務士よりも受験者数が多いと言われれています。行政書士試験に関して2001年、2002年の合格率が気になると思いますが出題ミスの影響で合格者が多い結果となったようです。また、狙っている訳ではないと思いますが2009年~2015年にかけでは合格率が対照的なのが面白いですね。
社会保険労務士に関しては「受験資格」があるので、誰でも受験可能な行政書士と同じ合格率ならば、社労士の方が難易度が高いと言えるのではという考え方もあります。ただ、社会保険労務士の受験資格に関して大卒であれば学部を問わず受験が可能である等それほど程厳格な受験資格とは言えないかなと思います。
※参考→受験資格に関しては社会保険労務士受験センターへ
「合格率という観点」から難易度を見る限りでは「ほぼ同じ難易度」といえるのではないでしょうか。
行政書士と社会保険労務士の難易度を合格基準から比較
当然、合格率は拮抗していましたが合格率が似通った数字だからと言って難易度が同じとは言えません。どのようなどれくらいの学習が必要で合格基準はどうなっているのかという部分が最も重要だと思います。行政書士と社会保険労務士の合格基準はどのようになっているのでしょうか。
行政書士と社労士の難易度は?行政書士の試験範囲と合格基準
まずは行政書士試験の出題範囲と配点を見てみます。
出題形式
|
科目
|
問題数
|
配点
|
|
---|---|---|---|---|
法令等 | 5肢択一式 | 基礎法学 |
2問
|
8点
|
憲法 |
5問
|
20点
|
||
行政法 |
19問
|
76点
|
||
民法 |
9問
|
36点
|
||
商法・会社法 |
5問
|
20点
|
||
多肢選択式 | 憲法 |
1問
|
8点
|
|
行政法 |
2問
|
16点
|
||
記述式 | 行政法 |
1問
|
20点
|
|
民法 |
2問
|
40点
|
||
一般知識 | 5肢択一式 | 政治・経済・社会 |
8問
|
32点
|
情報通信・個人情報保護 |
3問
|
12点
|
||
文章理解 |
3問
|
12点
|
||
合計
|
60問
|
300点
|
行政書士試験の合格基準に関しては下記の通り
- 行政書士の業務に関し必要な法令等科目の得点が、122点以上である者
- 行政書士の業務に関連する一般知識等科目の得点が、24点以上である者
- 試験全体の得点が、180点以上である者
基本的な出題範囲に関しては法令科目は「憲法」「民放」「行政法」「商法・会社法」ですね。民法と行政法は40文字程度の記述問題が出題されます。配点構成はかなり濃淡があり、「行政法」は112点/300点(37.3%)「民法」は76点/300点(25.3%)併せて6割以上のウエイトを占めています。「行政書士」の名の通り、この2つの科目は落とせない科目になりますね。また、一般常識に関してはSPI試験のような問題や、大学入試の国語の問題のような文章理解の問題も出題されます。
合格基準は「全体の6割以上(180点/300点)」を獲得していても、法令科目で5割(122点/244点)の得点と一般常識で4割強(24点/56点)を下回るといわゆる「足キリ」になります。ただ、足キリは「法令科目全体」「一般常識全体」で課せられています。「憲法」や「会社法」が仮に0点であったとしても他の科目でも挽回が可能です。
実際、合格者の中には例えば「会社法は捨てた」というように「行政法」「民法」「憲法」に集中して合格をしたという話を聴く事もありますね。(ほぼあり得ないと思いますが理論上は行政法0点でも行政書士試験に合格する事は可能です。)勿論「行政法」「民法」を得点源にする事が出来れば合格へ大きく近づくことが出来ます。
行政書士と社労士の難易度は?社会保険労務士の試験範囲と合格基準
試験科目
|
択一式
計7科目(配点) |
選択式
計8科目(配点) |
---|---|---|
労働基準法及び労働安全衛生法 |
10問(10点)
※労基7問・安衛3問 |
1問(5点)
※労基3問・安衛2問 |
労働者災害補償保険法 (労働保険徴収法含む。) |
10問(10点)
※労災7問・徴収3問 |
1問(5点)
|
雇用保険法 (労働保険徴収法含む。) |
10問(10点)
※雇用7問・徴収3問 |
1問(5点)
|
労務管理その他の労働に関する一般常識 |
10問(10点)
※労一と社一各5問 |
1問(5点)
|
社会保険に関する一般常識 |
1問(5点)
|
|
健康保険法 |
10問(10点)
|
1問(5点)
|
厚生年金保険法 |
10問(10点)
|
1問(5点)
|
国民年金法 |
10問(10点)
|
1問(5点)
|
合 計
|
70問(70点)
|
8問(40点)
|
※選択式には「徴収法」は出題無し。
社会保険労務士試験は「択一式」と「選択式」から構成されており基本的には以下の基準が基本となっていると言われています。
- 選択式(40点満点)
各設問5点満点中3問以上正解し、かつ総得点が28点(総得点の7割)以上
- 択一式(70点満点)
各設問10点満点中4問以上正解し、かつ総得点が6割~7割
主な試験科目としては8科目になります。択一式は7科目70問、選択式は8科目40問の穴を埋める試験です。記述式の問題はなく全問マークシートによる解答になります。科目による得点ウエイトの軽重はあまりなくまんべんなく学習をする事が必要になります。また、各科目毎に足キリ基準が設けられているため、例え総得点で基準点を上回っていても各科目で1点でも足りない場合には不合格になります。
行政書士と社会保険労務士の「合格基準」から見えてくる難易度
上記で見て来た通り出題範囲に関しては社会保険労務士試験の方がやや広いように感じます。一方で、行政書士試験に関しては「記述式(論述)」問題があるため論述式に不慣れな方はそういった訓練が必要でな部分があります。ただ、行政書士試験に関しての合格基準は「総得点の6割」で「足キリ基準」も必ずしもタイトではありません。
(理論上は点数の評価の分かれる「記述式」が0点であっても合格は可能)
社会保険労務士試験に関しては(大まかな合格基準は示されているが)難易度によって基準点が変る事、また、科目毎の足キリ基準がタイト(選択式に関しては各科目6割の得点が必要)である事等を考慮すると、社会保険労務士試験の方がやや難易度が高いのではないかなと思います。
行政書士と社会保険労務士の難易度比較行政書士試験は簡単!?
行政書士試験に関しては「最短3ヵ月で対策が出来る」といった情報を見聞きする事がありますね。かなり昔の話ではありますが5割近い合格率だった時代があり、学歴や実務経験による受験資格もないため「法律系」の入門資格としても当時から人気もありました。
(現在は先ほどのデータが示す通り合格率一桁%の資格です。)
また、行政書士の試験問題に関してはどちらかというと「親しみやすい問題」も多く、一見簡単に合格が可能と思われるふしがあるようです。確かに、憲法に関しては昨今「改憲議論が活発」になった影響で報道で取り上げらたり、選挙の度に憲法の規定も解説されます。民法はどちらかというと身近な法律ですし一般常識に関して必ずしも特別難解なテーマばかりではなく、社会情勢に興味がある方ですと特に対策をしなくてもある程度点数が獲得可能ではあると思います。
実際、法律系の学部にいる方ですと大学在学中に合格する方もいますね。社会保険労務士試験の範囲である科目はほぼ大学で学習する事はありませんが、「憲法」「民法」「商法会社法」「行政法」といった法律は大学でも学ぶ機会があります。ただ、「一見とっつき易い」感じが逆に仇となり、対策を疎かにしてみすみす不合格になっている方も多いように感じますね。
行政書士と社会保険労務士の難易度まとめ
さて、ここまで考察してきたまとめです。
- 社会保険労務士と行政書士の合格率は拮抗している。
- 社労士試験の方が出題範囲は広く配点ウエイトも均等
- 合格基準は社会保険労務士の方が厳しい
- 行政書士試験は親しみ安い問題もあり一見取組安いように見える。
(領試験ともやや合格率の幅が振れた事もあるが2000年以降の合格率は拮抗)
(行政書士試験は行政法・民法の配点ウエイトが高い)
(社労士試験は足キリが各科目毎の設定だが、行政書士はそこまで厳しい足キリ基準ではない)
(一見取組安いと思える分、対策不十分で不合格となる人も・・・)
難易度はほぼ拮抗していますが、あえて比べるのであれば「出題範囲の広さ」と「合格基準」からどちらかというと社会保険労務士試験の方がやや難易度が高いのではと思います。