社会保険労務士は人気の資格の一つです。特に、「労働社会保険」関連の法律は社会人になってから色々と接する事も多く、社会人になって初めて興味を持って受験を考える方も多い試験です。また、合格率が数パーセントの「難関試験」とは言え忙しいサラリーマンであっても何とか短期合格を目指せる試験と言われている事も人気がある理由とも言われています。各種資格スクールや通信講座も、
と、魅力的なキャッチコピーを謳っています。
しかし・・・社会保険労務士試験の難易度が上がり近年は合格率も下がっているとも言われています。各種資格スクールの難易度比較や受験案内は概ね「6ヵ月~1年未満」なのですが本当に「会社員」が受かるような試験なのでしょうか?
社会保険労務士の難易度を合格率推移から
まずは、社会保険労務士試験の難易度を「合格率という尺度から」見てみたいと思います。現試験制度になった2000年以降のデータを一覧にしてみました。
実施年次
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回 数
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申込者数
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受験者数
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合格者数
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合格率
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---|---|---|---|---|---|
2000年 | 第32回 | 50,689人 | 40,703人 | 3,483人 | 8.6% |
2001年 | 第33回 | 54,203人 | 43,301人 | 3,774人 | 8.7% |
2002年 | 第34回 | 58,322人 | 46,713人 | 4,337人 | 9.3% |
2003年 | 第35回 | 64,122人 | 51,689人 | 4,770人 | 9.2% |
2004年 | 第36回 | 65,215人 | 51,493人 | 4,850人 | 9.4% |
2005年 | 第37回 | 61,251人 | 48,120人 | 4,286人 | 8.9% |
2006年 | 第38回 | 59,839人 | 46,016人 | 3,925人 | 8.5% |
2007年 | 第39回 | 58,542人 | 45,221人 | 4,801人 | 10.6% |
2008年 | 第40回 | 61,910人 | 47,568人 | 3,574人 | 7.5% |
2009年 | 第41回 | 67,745人 | 52,983人 | 4,019人 | 7.6% |
2010年 | 第42回 | 70,648人 | 55,445人 | 4,790人 | 8.6% |
2011年 | 第43回 | 67,662人 | 53,392人 | 3,855人 | 7.2% |
2012年 | 第44回 | 66,782人 | 51,960人 | 3,650人 | 7.0% |
2013年 | 第45回 | 63,640人 | 49,292人 | 2,666人 | 5.4% |
2014年 | 第46回 | 57,199人 | 44,546人 | 4,156人 | 9.3% |
2015年 | 第47回 | 52,612人 | 40,712人 | 1,051人 | 2.6% |
2016年 | 第48回 | 51,953人 | 39,972人 | 1,770人 | 4.4% |
2017年 | 第49回 | 49,902人 | 38,685人 | 2,613人 | 6.8% |
2018年 | 第50回 | 49,582人 | 38,427人 | 2,413人 | 6.3% |
平 均
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–
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59,569人
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46,644人
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3,620人
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7.8%
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※赤太字は最低、黒太字は最高(現試験制度開始の2000年以降)
第32回(2000年)以降申込者数は多少増減はあるものの概ね増加傾向にありましたが、第42回(2010年)を境に減少に転じています。同じく、受験者数に関しても第42回(2010年)を境に減少傾向となり第48回(2016年)は現在の試験制度となってから最小となります。受験生としては最も気になる部分でもある「合格率」に関しては概ね7~8%だったものが、2013年に5.4%、2014年に9.3%、2015年に2.6%、2016年は少し戻して4.4%と振れ幅が過去と比較すると大きいですね。
「合格率が下がったから受験者数も激減している」という情報もなんだか説得力がありそうですが・・・。「受験者数」と「難易度」はおそらくそれ程関連性はないと思われます。受験する人にとって確かに合格率は気にはなると思いますが、初めて受験する人にとっては「9%」も「5%」も(2%は若干低いと気になるかもしれませんが・・・)「難関」である事に変わりはありません。皆「自分は受かる!」と思って学習をスタートすると思います。僕も「本気でやれば必ず合格する!」と意気揚々と挑んでいきましたからね。さて、以下のグラフをご覧ください。
少なくとも2000年以降に関しては相関関係がありそうです。あまり「景気が良い」とは感じませんが2016年の失業率は3%程度のようです。個人的には「数字」もそうですが「報道」も大きい気がします。かつては「リストラ」や「内定取り消し」などが大きく取り上げられて雇用不安(それでも先進各国の中での失業率は低い水準ですが)を感じる人が多かったと思います。一方で団塊世代が引退後は「仕事がない」というよりも「労働力不足」の報道が多いように感じます。
社会保険労務士の難易度上昇!合格率は下がっていく?
前述の「合格率推移のみ」から判断をするとしても、これから合格率が下がり続けて、試験の難易度が「これからも」上がっていくと判断するのは早計だと思います。46回(2014年)は今回の試験制度で過去2番目に合格率が高いわけですし、47回(2015年)48回(2016年)は過去の平均と比較すると確かに過去最低ではありますが現時点ではまだ一過性とも考えれらます。
第42回(2010年)から第45回(2013年)にかけても、合格率が下がり続けたため、今後は「難化」すると言われていましたが、結果的には第46回(2014年)では合格率は大きく上がりました。
確かに、受験者数や合格者数が増えた事で、行政側が「「合格者数」と資格を与えるべき「適正数」との間にミスマッチが生じている」と考えて、合格者数を減らしているのではないかといった情報を見聞きすると説得力があるようにも感じます。第47回(2015年)、第48回(2016年)の社会保険労務士試験の合格率に関しても「訴訟代理権」等社労士の権限範囲の拡大に向けて動いている事と、関連性があるといったような文脈で語られる事もあります。真偽のほどは分かりませんが、もしかすると「まさしくその通り」という可能性も考えられない事ではないかもしれません。
ただ、仮に現時点で「合格者を絞る」という意識が行政側にあったとしてもそれが、このまま数年にわたって実施され続けるとは考え難いと思います。前述のデータでもお話しさせて頂きましたが「資格取得熱」というのは社会情勢とも関連があると思われます。非正規が増えている部分があるとは言え失業率がこのまま下がっていくと行政側(連合会側)が考えるよりもさらに受験者数が減少する可能性もあります。(勿論、景気が悪くなってまた受験者数が増大する可能性もあります)
未来は誰にも分からない以上、過去と比較して「今回は難関だった」「今回は平易だった」という議論は成立しても、試験制度が大きく変わらない限りは未来まで含めて「難化する」「易化する」といったの議論は中々「答」は出ないのではないかと思います。
社会保険労務士の難易度は昔と変わらない?
社会保険労務士試験の難易度を合格率から予測したり、考えたりするのは難しいとお伝えしました。一方で「社会保険労務士の難易度は昔と変わらない」という意見もありますね。合格率が下がっている時にこちらもよく聞くのが「受験生の質が下がっているから」という議論です。
僕自身は「難易度が昔と変わらない」というよいりも「勉強方法は変わらない」「合格の当落線上へ辿り着く難しさは変わらない」、といった方がより理解が得やすいのではないかと思います。試験制度は少なくとも2000年以降同じ形式ですし、各種予備校のテキストやカリキュラム、価格は概ね変わっていません。ではなぜ、社会保険労務士試験の難易度は議論が錯綜してしまうのでしょうか。
社会保険労務士の難易度「議論」を難しくしている試験制度
どんな試験でっても「インプット(理解)」と「アウトプット(問題を解く)」が対策の基本だと思います。僕が聞いた感じでも合格された方は概ね「過去問10年分は理解した」と言っている方が多いように感じました。個人的にも過去問10年分を5回位回した頃で「あ、これは合格できるかも」と手応えを感じました。(結果は不合格でしたが・・・)
一通り科目の学習を終えて過去問も理解した頃には各種資格学校等の「模擬試験」の結果も合格ラインを超えてきます。勿論「実際に合格」するか否かは分かりません。社会保険労務士の試験に限らず「試験は水物」ですからね。しかし、社会保険労務士試験に関しての「水」はその「試験制度」のため「ただの水」ではない部分があります。
社会保険労務士の難易度を試験制度から考える
社会保険労務士試験は「択一式」と「選択式」から構成されており基本的には以下の基準が基本となっていると言われています。
- 選択式(40点満点)
- 択一式(70点満点)
各設問5点満点中3問以上正解し、かつ総得点が28点(総得点の7割)以上
各設問10点満点中4問以上正解し、かつ総得点が6割~7割
択一式に関しては基準点は「4点」つまり各科目4割なのですが、選択式に関しての「3点」はつまり各科目6割という事になります。社会保険労務士試験の選択式の「1点の重み」はハンパなく重いです。特に「白書」も試験範囲となる「労働に関する一般常識(略して労一)」に関しては試験範囲も広いため対策が難しいと言われています。それを踏まえて下記の各年の合格基準を確認下さい。
実施年次
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回 数
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択一試験
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択一調整
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選択試験
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選択調整
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---|---|---|---|---|---|
2000年 | 第32回 | 49 | 調整無し | 28 | 調整無し |
2001年 | 第33回 | 45 | 常識→3点 | 26 | 労安→2点 厚年→2点 国年→2点 |
2002年 | 第34回 | 44 | 調整無し | 28 | 労安→2点 |
2003年 | 第35回 | 44 | 労安→3点 厚年→3点 |
28 | 労常→2点 社労→2点 厚年→2点 国年→2点 |
2004年 | 第36回 | 42 | 健保→3点 厚年→3点 国年→3点 |
27 | 健保→1点 |
2005年 | 第37回 | 43 | 調整無し | 28 | 労安→2点 |
2006年 | 第38回 | 41 | 労安→3点 常識→3点 |
22 | 労安→2点 労災→2点 社常→2点 厚年→2点 |
2007年 | 第39回 | 44 | 調整無し | 28 | 調整無し |
2008年 | 第40回 | 48 | 調整無し | 25 | 健保→1点 厚年→2点 国年→2点 |
2009年 | 第41回 | 44 | 調整無し | 25 | 労安→2点 労災→2点 厚年→2点 |
2010年 | 第42回 | 48 | 調整無し | 23 | 国年→1点 健保→2点 厚年→2点 社常→2点 |
2011年 | 第43回 | 46 | 調整無し | 23 | 労安→2点 労災→2点 社常→2点 厚年→2点 国年→2点 |
2012年 | 第44回 | 46 | 調整無し | 26 | 厚年→2点 |
2013年 | 第45回 | 46 | 調整無し | 21 | 社常→1点 労災→2点 雇用→2点 健保→2点 |
2014年 | 第46回 | 45 | 常識→3点 | 26 | 雇用→2点 健保→2点 |
2015年 | 第47回 | 45 | 調整無し | 21 | 労常→2点 社常→2点 健保→2点 厚年→2点 |
2016年 | 第48回 | 42 | 常識→3点 厚年→3点 国年→3点 |
23 | 労常→2点 健保→2点 |
2017年 | 第49回 | 45 | 厚生→3点 | 24 | 雇用→2点 健保→2点 |
2018年 | 第50回 | 45 | 調整無し | 23 | 社一→2点 国年→2点 |
平 均
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–
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44.8
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0.7科目調整
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25.0
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2.4科目調整
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※点数は赤太字は最低、黒太字は最高。調整に関しては赤太字は調整科目数最高
(現試験制度開始の2000年以降)
社会保険労務士試験の難易度の「議論」を難しくしているのは毎年のように行われる「得点調整」(社労士試験用語?では救済と言います。)なんですね。2000年以降、択一式に関しては総得点は概ね基準(6割~7割)に収まり、得点調整は6回(それでも多いと思いますが・・・)ですが、選択式においては毎年平均しても2.5科目の調整があり第43回(2011年)は5科目が調整されています。また、「調整」がなかった年が2回しかありません。さらに、基準点が2点ではなく「1点」に調整される年も4回あります。
一応、行政側の言い分としては「試験の難易度に差が生じたことから、昨年度試験の合格基準を補正 」という事なのですが・・・。3点が2点になるのはともかく、「1点」補正等はどうなんだ?という気もします。10点満点なら2点という事です。また、ごく普通に考えると「平均点が低かった」科目から調整が入りそうなものなのですが、この辺りは必ずしも機械的に判定されている訳ではないようです。
毎年何処かで「奇問」が出ると事が多いと言われている選択式(特に労一)に関しては悲喜こもごものドラマとなります。勿論、多くの問題は「問題本文の中にヒント」があったり、広く労働経済などに興味を持って入れば何とか回答できるものが多いのですが、確かに「これは鬼問!(奇問)」という問題も出題される事もままあります。
「奇問」と言われる問題が出た年は総得点ではかなりの高得点を獲得しながら、選択式の1点に泣く受験生も多いのです。特に、社会保険労務士試験に何度かチャレンジをされている方ですと「余計な情報」が入ってきてしまい問題文の裏を読んで、平常心であればあり得ないような選択をして結果中々合格出来ない方もおります。
一方で、初受験の方はあまり試験制度に関して深く考えたりしている訳ではない方も多いので、択一式に関しては合格点丁度位でありながら選択式もすんなりと通ってしまう方もいます。結果、初受験でも「6ヶ月」で合格出来ました!と言う方がいる一方で、3年連続択一式は軽く50点を超えたり、8割近い点数を獲得しながら1点に泣き続けるという方もいるのです。
ただ、50点を超えるような点数を択一式で獲得できている方は継続すれば結局2~3回目で合格されている方が多いようです。以前スクールの講師の方から「50点以上3年連続で足キリになっている人」は見た事がないとの事でした。その先生が言っていた言葉が重いなぁとベテランになってから感じました。
社労士試験が「運」という方がいますね。そうです。でもそうじゃありませんか?どんな試験だって「運」の要素はありますよ。そして皆さんには「運」を引き寄せて合格をして欲しいのです。では、運はどうすれば引き寄せられるのか?それは確かな知識を積上げる事で引き寄せられます。どうすれば確かな知識を積上げられるか?もう基本です。問題集(過去問)とテキストの往復です。確かな知識が積み上がった状態とはどんな状態か?択一で50点以上を獲得する事が出来ていれば「確かな知識」があると考えて間違いありません。そこまで追い込めたら、あとは諦めないで下さい。必ず合格できます。だってそうじゃありませんか?来年も試験はあるのですから。
社会保険労務士の難易度と合格率に関してまとめ
ここまで考察してきたまとめです。
- 現状の合格率から将来の予測を立てるのは難しい。
- 合格当落線上までの難易度は大きく変わっていない。
- 「得点調整」多発の試験制度、それが「難易度議論」を複雑にしている。
- 択一で50点取れた頃に「確かな知識」が身についている。
(直近の合格率も上下しており、また、今後の受験者数の予測も難しい)
(試験制度も変わっておらず理解しなければならない事は極端に変わってない)
(6ヵ月で合格するのも嘘ではないし、高いレベルの人でも3年かかるという事も本当)
(どんな試験にも運はある!運を引き寄せるのは確かな知識!)
以上、社会保険労務士試験の難易度と合格率に関しての考察でした。